時々、患者さんから「毎日歯磨きしているのに、なんでむし歯になるんだろう?」と言われます。
そこで今回は歯磨きについて、私の体験談をお話しします。
私は高校3年の受験ぎりぎりまで車のエンジニアを目指して勉強していましたが、親の強い希望があり、医学部歯学部に変更しました。人体解剖をしたくなかったので歯学部にしましたが、入学して人体解剖の時間はみっちりあったので、それなら医学部のほうが良かったかなと後悔しました。勝手に解釈した私のミスです。
はなしを元に戻して、ある日90分間の歯磨き実習がありました。実習前はほとんどの学生が小馬鹿にしていました。「歯磨きよりもっと大事な勉強があるよなー。」などとうそぶいていました。私もまったく同じ意見でした。
実習は、まずいつも通りに歯磨きをします。ただし歯磨き剤は使いません。歯磨きが終わったら、磨き残した歯垢を赤く染めだします。1本の歯で虫歯になりやすい部分は奥歯の噛む溝、表側と内側の生え際2か所、隣の歯との間2か所です。前歯で4か所です。
この部分がすべて磨けていれば100点、完璧にむし歯を防げます。
非常に難しいので日本中探しても500人いるかな~?30年前ごろ100%磨きという運動が盛んになり歯科医、歯科衛生士が必死に挑戦していましたがなかなか大変そうでした。80%磨けていれば80点、ほぼむし歯を防げます。60%磨けていれば合格、まずまずです。約40名の学生での実習でだれ一人として合格できませんでした。恥ずかしながら私はなんと19点。今でも鮮明に覚えています。
それから、歯ブラシの選び方、動かし方、時間のかけ方などの勉強。補助的な糸ようじ、歯間ブラシなどの勉強。歯磨剤の使い方の勉強。歯磨剤で歯垢は落とせない。歯垢は歯ブラシでこすり落とすのがメイン。歯磨剤は補助的で、茶渋を落としたり、フッ素など歯を強化するもの、歯肉の炎症を軽減するものなどです。などなどです。
実習が終わった時、学生全員が「今日の実習はよかったー。」と感想を述べていました。私などは放課後に後輩を集めて、実習について喋ったものです。下の図は木下四郎先生(故人)著「プラークコントロール」からのものです。
私の歯磨きとむし歯体験です。
私の幼少期は、スーパーマーケットはなく(中学時代に初めて福山駅前にスーパーマーケット・ダイエーができた)、お米は米屋さん、野菜は八百屋さん、魚は魚屋さんまたは行商のおばあちゃん、パンはパン屋さん、お菓子は菓子屋さんで買いました。
甘いお菓子が食べられるのは一部のお金持ちだけで、うちではお客さんが来た時にお饅頭を出していて、運良く残してくれたら子供たちみんな大喜びでした。歯磨きは週1回程度でしたが高校卒業まではむし歯なし。
大学に入って友達がみんな歯磨きするのを見て(寮生活をしていた)毎日歯磨きをするようになったが、アルバイトで給料をもらったら、シュークリーム10個、ピーチネクター1本を買って1度に食べていました。おかげで2本虫歯になりました。
その後は、歯磨きの実習もあり、勉強のおかげもあり現在まで約45年間虫歯知らずです。以前にお知らせした歯周病も、私はありません。
さて皆さんはどのように歯磨きをしていますか?部屋の掃除と歯磨きには大きな違いがあります。どのような違いか分かりますか?
一番大きな違いは、ちゃんと目で見ながら掃除をしているか?いないかです。
歯磨きの時、多くの方は洗面所で鏡を見ながら、なんとなく顔や口元を見てされていると思います。その時歯ブラシは必要な部位にぴったり当たっていますか?つまり、多分当たっているだろう。いや当たっているに違いない。歯磨剤でこれだけ泡立っているのだから歯垢は取れているに違いないと感覚的に思っているだけなのです。