
以前スポーツドリンクに関して、むし歯と糖尿病の関連についてお知らせしました。
今回新しい知見が発表されたのでお知らせします。また暑くなって飲む機会が増えてくるので絶好の機会と思います。
もう何年も前になりますが、陸上競技(駅伝?長距離の選手)をやっている患者さんに、スポーツドリンクについて説明をしました。するとその選手は「陸上部として決まっているので減らすことはできない。」と言うのです。私は若いころから思ったことをそのまま言ってしまう悪い癖があり、険悪な雰囲気になったことも度々あります。その時もせっかく体のためになると思って言っているのにと言う思いから「だったら、今度陸上部の監督さんと一緒においで、説明してあげるから」と言ってしまいました。結局、監督さんは来ませんでしたが。
以下に以前のお知らせを載せます。
最後に水分補給にスポーツドリンクが適しているわけではなく、水と変わらないとの実験の記事を載せますので、最後までお読みいただけたら嬉しいです。
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今週の症例 むし歯と糖尿病 スポーツドリンクに気を付けよう
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以前、むし歯と脚気について書きました。少し話が変わりますが、むし歯と糖尿病の患者さんの症例も経験しています。この患者さんは50代男性、ドライバーです。むし歯がたくさんあり、約半年をかけてすべてのむし歯を治療しました。
それから1年経ってからまた受診されました。診察して驚きました。むし歯が多発して、歯周病になり歯が動揺していました。驚いて食事について変わったことがないかを質問しましたが、特に何も出てきませんでした。5分くらいあれこれ尋ねましたが特に問題のある食事ではありませんでした。しかし、最後に
「ポカリスウェットは体にいいのでよく飲んでいます」と言われたのです。「それですよ原因は、どれくらい飲みますか?」と質問すると「1日5本は飲みます。」と言われました。後日、この患者さんは糖尿病にかかっていることが分かりました。
またある時、1才の赤ちゃんを連れてお母さんが来院されました。赤ちゃんの歯がいつまでたっても生えてこないとの相談でした。診察すると歯は2本あるのですが根っこ(歯根)だけになっていたのです。
「飲み物は何をあげていますか?」と質問しますと「ポカリスウェットを哺乳瓶で飲ませています。」と答えられました。そこで「歯は生えてきているのですが、ポカリスウェットのせいで歯が出てくるそばから溶けて根っこだけになっています。」と説明しました。
また、昔お世話になった方ですが、あるスポーツマンは缶コーヒーが好きで毎日何本も飲んでいました。むし歯が多発したそうです。数年前、脳梗塞になり少し後遺症が残り、スポーツは無理になったそうです。
スポーツをすると、のどが渇くので、缶コーヒーやスポーツドリンクを飲む方が多いですが、たまに飲むのはいいですが、出来たら控えたほうがいいです。砂糖の取り過ぎは病気の始まりです。
栄養学者の川島先生(故人)は軍隊の行軍で実験したところ、0.5%の食塩水が一番体に良かったと発表されています。水1リットルに海の塩5グラムを溶かしたものです。私はこれを飲んでいますが、少し塩辛いのでもう少し薄めてもいいと思います。
以下は当院で患者さんに渡しているパンフレットです。
ジュース・スポーツドリンクに注意しよう
皆さんは喉が乾いたとき何を飲みますか?水ですか?お茶?それとも…・・スポーツドリンク、ジュース、缶コーヒー、コーラなどの清涼飲料を飲みすぎていませんか?これら清涼飲料にはどのような特徴があるのでしょうか?
① 問題点
酸性度―歯質は、pH5.4以下になると表面のカルシウム分が溶け出します。砂糖分―清涼飲料を飲むと上の前歯に砂糖分が粘りつき、これを細菌が餌にして歯垢を多量に作ります。歯垢は酸をつくって歯の表面を溶かし虫歯を作ります。
② 結論
酸性分と砂糖分のダブルパンチで上の前歯が集中的に虫歯になります。上の前歯が虫歯になるとおしゃべりしたり笑ったとき大変目立ちます。
③ 対策
1)清涼飲料(スポーツドリンク、ジュース、缶コーヒー、コーラ、ヤクルト等)は週2回くらいに減らす。(できれば水、麦茶、牛乳、0,5%食塩水等にしましょう。)
2)必死に歯磨きをする。(歯科医院で歯磨きのこつを教えてもらいましょう。これは重要です。ただし大変難しいです。)
3)ながら磨きのあと使う歯磨剤をフッ素とキシリトール入りのものにする。(フッ素は酸に溶けにくい歯を造ります。キシリトールは歯垢を少なくします。)
以下が新しい実験の情報です。
今年も「脱水を起こさないように気を付けよう!」「熱中症対策にこまめに水分補給を!」、というマスコミが騒ぐ季節がやってきました。もちろん汗を掻きやすくなりますから、水分補給が必要になることもあるでしょう。しかし、水分補給をしたから熱中症が防げるわけではありません。(「熱中症予防に水分補給?」参照)
そして、この季節、スポーツドリンクを飲ませようと企業がアピールします。「汗を掻くと、水分だけでなく塩分も失われるから、塩分を含んだスポーツドリンクが最適!」、などと宣伝するため、それを信じてしまう人が非常に多くいるでしょう。
医師でさえ水分補給にスポーツドリンクを勧める人もいるのは非常に残念です。
ある企業は、子供は寝汗を掻くから、寝る前の健康習慣「おやすみ〇〇〇」というとんでもないキャンペーンで、売り上げを上げようとしましたが、すぐにこのキャンペーンは中止になりました。(ここ参照)
スポーツドリンクは子供でも、高齢者でも、どんな人にも日常生活のどんなタイミングでも必要
なものではありません。ましてや健康的なドリンクではありません。赤ちゃんや小さな子供に飲ませてはとんでもないことになる可能性もあります。(「糖質過剰摂取で脚気になる!乳幼児で死亡例もある!スポーツドリンクなんていらない!」を参照)
500mlのスポーツドリンクを飲んだらビックリするくらい血糖値が上昇します。
では、スポーツドリンクは水よりも水分補給に向いているのでしょうか?
今回の研究では、様々なドリンクを比較して、体の水分保持に対する効果を分析しています。beverage hydration index(BHI:飲料水和指数)というもので比較しています。BHIはただの水を摂取した後の尿量をそれぞれのドリンクを飲んだ後の尿量で割ることで求められます。それぞれのドリンクを飲んで尿量が少なければ、その分体に水分が保持されるという考えです。(図は原文より)
上の図はそれぞれのドリンク1リットルを飲んだ後の尿量によって求められたBHIの比較です。横軸のドリンク名は左から、ただの水、炭酸水(無糖)、コーラ、ダイエットコーラ、スポーツドリンク、経口補水液、オレンジジュース、ラガー(ビール)、コーヒー、紅茶、冷たい紅茶、全脂肪乳、スキムミルクです。ただの水を1として、BHIの数値が大きいほど水分保持が大きいことになります。
そうすると、水と比較して有意に大きくなったのは、経口補水液と全脂肪乳、スキムミルクだけでした。経口補水液はかなり多くのナトリウムなどの電解質が入っているからなのでしょうね。牛乳やスキムミルクはタンパク質や脂質が入っているために、吸収がゆっくりになって、その分尿が少なくなった可能性があるのかもしれませんが、4時間尿を採取しているので、これらもそこに含まれる電解質の量によるのかもしれません。
いずれにしても、スポーツドリンクが水に勝って水分保持ができるという結果はありませんでした。つまり、通常の生活の中では何を飲んでも大して水分補給の効果は変わらないことになります。あえて水分を保持したいのであれば、経口補水液か牛乳となるのかもしれません。しかし、通常の生活で経口補水液が必要である場面はほとんど、または全くありません。経口補水液には糖質も入っているので、日常では水やお茶で十分です。
汗で失われる塩分なんて、長時間の激しい運動以外では問題となりません。通常の食事で十分に補給できます。飲み物で補給する必要は全くありません。
企業の戦略に騙されて、脱水予防だと思い、糖質のたっぷり入ったスポーツドリンクを飲むことは明らかに健康に有害です。
「A Randomized Trial to Assess the Potential of Different Beverages to Affect Hydration Status: Development of a Beverage Hydration Index」
「異なる飲料が水和状態に影響を与える可能性を評価するランダム化試験:飲料水和指数の開発」(原文はここ)