
これまで歯が原因ではないのに歯が痛くなる病気(非歯原性歯痛)についてお知らせしてきましたが、新しく体験した非歯原性歯痛についてお知らせします。
70代の男性患者さん、右上の奥歯がしみて、ずきずき痛むと訴えられて来院されました。早速診察してレントゲンも撮影しました。右上の前から7本目にむし歯があり、麻酔をしたところ痛みがなくなったので神経を取る治療をしてその日は終了しました。
次の予約の日、また痛みが再発したと言われました。まさかと思いながら口の中を診察したところ、右の口蓋に小さな水ぶくれがたくさんできていたのです。これは帯状疱疹の症状です。
私も数年前、帯状疱疹を経験しました。初めは髪を洗った時、違和感を感じる程度でしたが、何日かするとチリチリした焼けつくような痛みに変わりました。ここに至って、いろいろ考えた時、帯状疱疹かもしれないと思いインターネットで検索してみたところ確信に変わりました。
皮膚科内科に予約を入れて受診しました。先生は私の後頭部を診察して「ああ、もうほとんど治っている」と言われ、薬を出してくださいました。今回の患者さんには、進行したむし歯があったので神経を取りましたが、やむを得なかったのかなと思います。もしも、むし歯がなかったら診断に迷ったことでしょう。患者さんには、帯状疱疹であることを説明して、病院への紹介状を書き、受診していただきました。
帯状疱疹になると上記の写真のような皮膚症状が出てきます。皮膚症状が出る前では鑑別診断が困難です。
帯状疱疹の初期症状として、歯の痛みが持続的に続くことがあります。臨床症状としては、ウイルスが歯の神経まで達すると虫歯のない歯にズキズキとした痛みとして感じられ、数日の間に強い痛みへと移行します.
その後、周囲の歯肉や顔面皮膚に赤い斑点(はんてん)と小さな水ぶくれが帯状(おびじょう)に現れ、刺すような、焼けるような強い痛みを伴います。
帯状疱疹の原因は,子供の頃に感染した水ぼうそうのウィルス(水痘帯状疱疹ウイルス)です。幼少期に感染したウィルスは,以後何十年も神経の集まった部分(神経節)に潜んでおり、高齢や病気で免疫力が低下すると再活性化して、帯状疱疹を発症します。
水ぶくれに含まれる液のウィスル検査(PCR)や血液検査で、水痘帯状疱疹ウイルスに対する抗体の量を調べることができます。
帯状疱疹性歯痛はウイルス由来の神経の炎症と考えられていますので、原疾患に対して、抗ウイルス薬(塩酸バラシクロビル、アシクロビル)を用い、神経の炎症にはバファリンのような非ステロイド性抗炎症薬やステロイドを処方します。