
唾液は必要不可欠
唾液に関する言葉には「天に唾(つば)する」「唾棄(だき)すべきもの」などがありますが、あまりいいイメージは湧いてこないですね。唾液はいったん口から出てしまうと汚いイメージなのでしょう。しかし、唾液は人の健康にとって必要不可決なものです。
よだれ
赤ちゃんに親が食べ物を噛んでつぶしてあげるのは日常的なものです。赤ちゃんは唾液をよだれとして溢れさせています。これは、口のまわりの筋肉がまだ発達していないためです。
筋肉の発達とともによだれは減少し唾液はすべて飲み込めるようになります。キス(接吻)も相手の唾液を少し吸い取っていることもあります。怪我をしたらベロベロ舌で舐めるのも唾液ですね。
口の中の傷は早く治る
また、口の中の傷が早く治るのをご存じですか?皮膚に出来た傷と違って口の中の傷はカサブタが出来ずに大体2~3日で治ってしまいます。皮膚に出来た傷はカサブタが出来て7~10日間かかって治ります。この違いはどのような理由かと言うと、口の中は唾液で湿潤状態に保たれ、皮膚は乾燥状態にあるということです。
「なつい式湿潤療法」
なので皮膚の傷に対してワセリンをたっぷり塗ってラップでカバーしておくと2~3日で治ります。この治療法を「なつい式湿潤療法」と言います。覚えておくとすごく役に立ちます。ワセリンには保湿作用や止血作用があります。
私もテニスでけがをしたときにやってみました。ダブルスの試合でネット際のボールを追いかけて私もパートナーも猛ダッシュ、二人が激突すると思った瞬間、直前にわたしは左にジャンプして両腕で着地しました。激突は避けられました。それは良かったのですがコートが少し雨でぬれていたため、両腕でスライディングしてコート横の縁石に激突、両腕に20cmの大きな擦り傷を作り出血しました。
私はいいことを聞いたり読んだりしたら、大体一度はやってみる性分です。これは「なつい式湿潤療法」を試す絶好のチャンスと左手はワセリンたっぷりとラップ巻き、右手は従来のカサブタでやってみました。
それではお楽しみの結果発表です。
左手はなんと20cmものすり傷が2~3日で皮膚が再生、治ってしまいました。右手の同じく20cmのすり傷はだんだんとカサブタが出来、そのカサブタが取れてきれいになるまでに2週間かかりました。それ以来子供のけがなどで当院を受診された親御さんに「なつい式湿潤療法」をおすすめして喜んでもらっています。けがとやけどの時は必ずスマホで「なつい式湿潤療法」を検索してください。いろいろな治療剤が載っています。
それでは唾液とはどんなものなのでしょうか?次の図に簡潔にまとめてありますのでご覧ください。
発がん物質も無毒にする
上記のほかにも、ウィルスを不活性化する酵素も含まれていますし、発がん物質も無毒にする酵素もあります。数え上げるときりがないくらいなのです。
最近ではご飯の時、一口30回噛みが推奨されています。よく噛んで唾液をたくさん出してご飯を食べれば、少々おかしな食べ物であっても腹を下すことなく栄養分を効率よく吸収できるという考えです。
徳川家康は一口48回噛んだそうです。人生50年と言われた時代に76歳まで生きています。また、ソ連の行ったシベリア抑留で、ある人は友達と絶対生きて帰ろうと、一口70回噛んで厳しい労働に耐え二人そろって生還したそうです。以前に歯列矯正の件で卑弥呼の時代1食で噛む回数は約5000回、現在1食620回と書きましたが、歯並びだけの問題ではないのです。
唾液が減ると病気になりやすくなる
唾液が出なくなると全身的な病気になりやすくなります。歯科関係で言えばほとんど虫歯にならなかった人がしょっちゅう年に何度もむし歯になっていしまいます。治療する私たちも本当につらい思いをします。
よく噛んで食べると太らない
アメリカの実験で、同じ食事をよく噛んでもらう場合と、流動食にしてチューブで直接、胃に送り込む場合に分けました。よく噛んで食べた場合、すぐに体温として、どんどん放散されていく。これを体熱放散と言います。全く噛まない場合、この体熱放散は少なくて、食事は体脂肪として、どんどん蓄積されてしまいます。
つまり噛まないと太るのです。またよく噛むと少ない量でも満腹感を覚えます。これも太らない理由になります。